フェ○チオ北海道

新人監督・苅谷文が、巨匠・平野勝之を追いかける期間限定ドキュメンタリー。

9月2日
ルート:クッチャロ湖→稚内
走行距離:約90キロ

平野さんが東京に帰る日だ。オイラは稚内を目指す。
稚内から、礼文へ渡るつもりなのだ。

実は、北へ行くと決めた時点で、目的地は礼文の最北端、スコトン岬と決めていた。もう9月に入ってしまって、日にちも延長しているので、急いでスコトンまで行く必要があった。それが理由で、この数日間、かなりの距離を走っていたのだ。そのうちに、いつの間にかランナーズ・ハイになってしまったのだった。
礼文は小さな島なので、走る距離は短い。
そんなわけで、一応、長距離を走るのは、今日が最後になる予定だ。

朝から雨。寝不足も合間って、イライラする。
幸い、雨はすぐ止んだが、でも、すぐにまた崩れそうな雲行き。はっきりしない天気。

8時頃、宿を出る。まず、コンビニでお水を買おうと思い、立ち寄る。
そしたら、昨日の漫画立ち読みチャリダーがいた。
近くのキャンプ場に泊まったらしい。コンビニの前でパンをかじっていた。これから、彼も私と同じ、稚内を目指すという。
少し、カメラを回しながら、話しをさせてもらう。関西出身の大学生らしく、関西から自転車日本一周をスタートさせたそうな。聞くと、「昨日はここのコンビニで3時間も漫画を立ち読みしちゃった」んだとか。ふむふむ、イイね。話を続けると、日本一周について、なんか語り始めたので、急にうっとおしくなる。
なんで、こうアレなんだろうなぁ...。最初に一緒に走ったチャリダーのTさんといい、徒歩のウサギといい、この男の子といい、みんな日本一周を目指している人たちだけど、全員に一貫しているのは、自分のやってることを「すごい」と認めてもらいたいオーラが出ているということ。それが、ウザい。確かに、何かをやる以上、人に認めてもらいたいものだし、それは私も一緒で、他人から誉められれば嬉しいものなのだけど、でも、それがなくても、できるはずじゃないのか。
単純に、「好き」だという気持ちでできないものなのか。

オイラの場合、今回の目的は「自転車で旅をすること」ではないので、行く先々で「すごいわねぇ〜、大変ねぇ〜」とか同情されたり、誉められたりしても、全然うれしくもなんともねーのだ。むしろ、賞賛されるより、蔑まれた方が喜ばしい。話せる人には事情を話すが、いちいち「人を探すために、自転車をこぐ羽目になっちゃいましたぁ〜」なんて、説明したくない。

だいたい、日本一周とか、旅してるんすよー、とか言うの、恥ずかしくないか?
オイラは、「すごいわねぇ〜」と言われる度に恥ずかしいのだ。
すごくない、少しもすごくないんだ。
こんなものはくだらない、と言ってやりたい。

オイラがこうして自転車で走る理由は、平野さんが好きだからなのだ。
そんで、平野さんが撮りたいからなのだ。
それしかない。

北海道で平野さんを撮れるのは、今日・女満別空港。それ以外に残されたチャンスはなかった。
でも、撮らないことを選んだのは、平野さんを撮りたいから。だから、撮らないのだ。矛盾しているが、そうゆうことなのだ。

だいたい、平野にーちゃんとオイラが空港で出会うシーンなんか、誰も見たくないだろう。それより、もっと他に使命があるはずなんだ。だから、それをやりに行く。それだけのことなのだ。
物を創るというのは、愛だと思っている。それがなくなったら、オイラの場合、自転車で一人旅をしようが、日本一周しようが、ただのゴミなのだ。
人は捧げているときが一番いい。自分のために生きていても仕方ないだろーよ。

んで、走った。
途中、激しい雨に見舞われたので、コンビニで雨が弱まるまで、雨宿りすることに。そしたら、漫画立ち読みチャリダーくんが、先に停車していた。私の方が早く出発したのに、いつの間にか追い越されていたらしい。
チャリダーくんは、やっぱり、漫画を立ち読みしていた。いやいや、こいつぁ、スゴイ。北海道を走ってるのにも関わらず、景色に目もくれず、漫画に夢中になっている。私の姿すら目に入っていないようだ。本から目を離さない。微動だにしない。そんなに連載モノが気になるのか。すげーよ、アンタ。日本一周より、そこに尊敬を覚えるぞ、私は。ぜひ、日本中のコンビニで立ち読みして頂きたい。日本一周なんかよりも、日本中のコンビニで漫画立ち読み制覇の方が、キミには向いている。早く気付いてくれ。そして、ぜひそれを目指してくれ。「立ち読み旅人」という、ニュージャンルを築いてくれ。キミにしかできないはずだ。情景だの、走ることだの、そんなものには感化されず、立ち読みだけに一心不乱になって、津々浦々してくれ。キミの目指す先はコンビニだ!コンビニで立ち読みできない日は、発狂したりしてな。面白いぞ。私がキミだったら、それをやるね。全国の立ち読み少年のために身を捧げて欲しい。キミはチャリダーなんかじゃない。ただの立ち読み坊主だ。あとは、それを認めるだけ。「俺が本当にすきなのは漫画だ!」と言ってしまえ。では、サラバ!
声をかけずに、コンビニを後にした。


平坦な海沿いロードの先に、宗谷国道がある。
宗谷国道は、軽い峠になっていて、そこで強い横風と雨にぶち当たった。少しも上れない。結構キツい。
雨だったけど、これが最後の坂かもなー、と思ったら、下り坂を撮りたい気分になったので、無理やり回すことに。カメラにビニールをかけて、ボディを守ってから、走行。全体にビニールをかぶせてあるので、手が滑って危ない。落としたら、ジ・エンドだったぜー。あぶねー。

今日は走行シーンをかなり回したと思う。
あいにくのズグズグ天気だったので、手持ちのみで。

軽い峠を越えたら宗谷岬はすぐだった。
岬に着いた時刻は、17時だった。ひえー!もうこんな時間!ゆっくり走りすぎたぜー。ボヤボヤしてる暇はない。稚内まで、あと30キロも残ってる。
とりあえず、宗谷岬で、朝コンビニで買ったパンをかじって、休憩終了。
別に、ここは目的地ではないので、最北端だろうが、なんだろうが、カンケーない。カンドーもない。それに、「最北端」って書かれた看板?オブジェみたいなのが、なんかバカみたいだし、その前で列を成して写真を撮っている観光客が、かなりウザいのだ。おまけに、宗谷岬ソングなんかが、流れてる。演歌みたいなの。ヘンなの。こんなところに長居は無用。

時間も迫ってきているし、さっさと後にしようと出発しようとしたとき、ちょうど、おじさんチャリダーがやってきた。稚内方面から来たようだ。向こうから挨拶してくれた。チャリダーの話を聞く機会も、もうないかもしれないので、話をしてみることに。38歳の会社員の方で、人当たりの良い人だ。遅い夏休みで北海道にツーリングに来たのだそう。礼文島から出発したんだそうだ。私とは逆ね。テント生活ではなく、宿泊まりなので、フラットな装備。この人も、女ひとりチャリダーのオイラに驚いていた。そんなに驚かんでも。あなたも自転車で走ってるじゃん。性別が違うだけで。
ツーショット写真を撮りたいと言われたので、映った。こちらも、その模様を撮影させてもらった。
よく、チャリダーの人から一緒に写真を撮りたいと言われて、映るんだけど、これ、不思議だよな。私に会ったことが記念になるのか。恐縮っす…。

ムッシュー・チャリダーに稚内までの道のりと、礼文島の道の状態を教えてもらう。ここから稚内までは、急な坂はないそうで、平らな道が続くとのこと。よし、なんとか走れそう。礼文は、スコトン岬に向かう手前が短い山道になっているのだとか。う〜む、最後の最後も坂道になるのか。

宗谷岬を発ち、稚内を目指す。
宗谷岬に夕日が沈んでいくのを見ながら、走った。最北端の夕日だーい。そう、オイラ、明日は礼文に渡り、先端のスコトン岬に行くのだ。
なぜって?そう、やりたいことがある。なにを?秘密じゃ。

夕日も落ちて、空が藍色に変わった。最後の最後まで夜間走行だな、オレは。まったく、計画通りに事が運んだ試しがない。
まだ空の明かりがあるうちに、最後の走行を収めておく。薄暗い画。主観で回す。ラストスパート、感謝を込めて走った。

この撮影、元々はオイラの私利私欲で始まったことに、平野さんご本人や、制作会社の方々が協力して下さったことが、ただ、嬉しい。撮らせていただき、本当にありがとうございます。オイラは幸せ者です。
あと、心配してくれた友達や、オイラに天気や土地の情報をメールで送ってくれた友達、遠くから励ましてくれた友達に感謝しています。
ちなみに、私がテントと寝袋を買う前に、よかったら使って、と言って、手持ちのテントと寝袋と、アウトドアグッズを急いで送ってくれたY子さん、結局、何一つ使う事ができませんでした。本当にすみません。でも、貸していただいた、ツーリングネット(荷物を荷台にくくり付ける紐)は、最初からずっと使っていました。メイン荷物を縛る用に使用させて頂き、とても重宝しました!頑丈でナイスなネットです。ありがとうございました。


そして、夜が来た。
最後の街を目指して、走る。
前方に、稚内の街の灯りが見えてきた。野寒布岬に続く半島に沿って、オレンジの街灯りが並んでいる。まだ空の藍色が残っている。シャッタースピードを緩めて、カメラを回す。街灯りと、空の破片と、オイラの自転車のライト、車のヘッドライトが映る。黒の中に単色が並ぶ。
もう、終わるんだ。

初めて、自転車で走ることに感動した。